地域の方から、おなづか小学校の校長先生だった矢島富士雄氏の「こころのともしび」という教育随想集をお借りいたしました。平成11年3月に発刊されたもので、同氏がおなづか小学校時代の3年間、池上第二小学校時代の4年間に執筆された学校だよりに掲載されたものです。こどもたちとの日々のあたたかなふれあい、PTAや地域の方々との築かれている信頼関係、学校の職員の方々との学校を良くしていこうという想いに満ち溢れ、そして教育者として美しい日本語で、綴られています。その中で印象に残ったお話をご紹介させていただきます。

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「姉と弟」

登校して来る子供は誰もが気持ち良く挨拶してくれます。登校してくる子供たちの様子を見たり挨拶したりするために校門に立っていますが、先日、校門にいた私の所へ、すでに登校していた一年生のA君とB君が息せききって来ました。表情を変えたB君は「A君はおもちゃを持って来た。」と私に言い付けました。するとA君も私に「B君もおもちゃを持っている。」と言いつけました。二人は言い合いになり蹴ったりぶったりの喧嘩になってしまいました。他の子もたくさん集まって来て皆で引きとめました。二人とも引き離され、くやしそうに泣きじゃくり興奮していました。しばらくするとA君のお姉さんが来て言い分を聞いてあげました。A君はお姉さんの胸に顔をうずめ泣いていました。お姉さんはA君の頭をさすりなだめていました。直に、B君のお姉さんもやって来ました。なかなか興奮がおさまらなかったB君に、お姉さんは「私にならいくら当たってもいい。ぶちたかったら私をぶってもいい。でも友達には当たってはだめ。」と涙を流しながら説得していました。お母さん代わりをしてくれた二人の優しいお姉さん。二人とも、まだ三年生と四年生になったばかりの小さなお姉さんです。弟や友達を大切にしようとするそのお姉さんを見て私は心豊かな気分になりました。まわりにいた子供たちもこの様子をしっかり見ていました。親の知らないところで兄弟姉妹が固い絆で結ばれているのです。きっと、家に帰ってからも今日あったこのできごとを、お父さんにもお母さんにも言わなかったことでしょう。その後、担任の先生が二人の男の子を引き取り、上手に解決してくれました。

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よくある子供同士の喧嘩です。しかし、私はこのお話を読んだ時に、次のことに気づきました。

・子供同士の喧嘩を先生は見守っている。

・他の子供たちが集まって来ても隠さない。

・子供たちがどのように決着するのか見守る。

・父母に先生たちから報告しない。

・最後は先生が諭す。

この出来事は今から25年前です。子供たちは、最初に先生に言いつけたにも関わらず、先生は子供同士で解決する過程を見守る、という子供の自立を促す姿勢にとても共感いたしました。25年後の今はどのように感じるのでしょうか?このお話をきっかけに、小学校のお子さんを持つお父さん、お母さんたちともお話してみたいと思います。