おなづか小学校の校長だった矢島富士雄先生の「こころのともしび」という教育随想集の中から、印象に残ったお話をご紹介させていただきます。

————————————————————————————————————-

「藪の中」

豊かさと自由を求めて歩んできた戦後五十年、幾多の困難を乗り越え先人たちの努力のお陰で、その目標はかなりの部分で実現されました。今や、一人一人を大切に、個性の尊重を、主体性を育てる教育を等という崇高な価値を追求するのに全力を挙げています。

昔は「貧しさ」や「地域社会の教育力」等が子供に我慢することや生きる力、他への思いやりなどを培ってきました。しかし、社会が豊かになるにつけ、自由の名のもとに人々は自己中心的になり、公共の福祉や社会全体の利益を考えなくなるなど精神的な豊かさなど、失ったものもたくさんあります。

芥川龍之介の書いた短編物語に「藪の中」というものがあります。映画にもなったのでご存じの方も多いと思いますが、次のような内容です。

ある夏の暑い日に、馬に乗った若夫婦が山中の藪の中を通りかかりました。そこへ盗賊が来て金品を盗ろうと主人を襲い殺してしまいました。目撃者もいたので犯人も捕まりました。お白洲で、役人に調べられた目撃者の木こりの言うこと、女房の言うこと、殺された主人(巫女が語る)の言うこと、捕えられた盗賊の言うことなどが皆な違い、その誰もが自分の都合の良いように語るので真相が全くわかりません。

自己中心の言動は人間の本質のようで、それから千年経った今でも同じようであります。しかし、真の意味の自由で豊かで正義の通る社会を作っていかなければならないと思います。

健全な子供の育成や良い社会を作るためにも、よくないことは「良くない」、悪いことは「悪い」などと毅然とした態度で必要な時には、体を張ってでもわからせることが大切であります。

体験的な経験をする夏休みがきます。善悪の判断、思いやりの心、耐える意思等を培うのに良いチャンスです。

————————————————————————————————————-

世の中は今、「多様性」という言葉を使い、個人の自由を公共福祉よりも上に置こうという風潮があります。果たしてそれで将来子供たちはどうなるのでしょうか?社会に出たときに、これまで育ててくれた地域のために恩返しをしていくという気持ち、未来を担う子供たちのために、これまで育ててくれた親のために、戦後の焼け野原だった日本をここまでの豊かな国へと支えてくれた高齢者のために、という気持ちを持てるでしょうか?消防団、町会、自治会、PTA、青少年対策地区委員、オヤジの会、保護司、民生委員…これらの方々は仕事と並行して地域社会のために働いてくれています。想像力を働かせ、人のため、地域のため、未来の日本のために働ける子供を育てていくことが大切ですね。